トップがいなくても動ける組織をつくる!
御社の事業内容について教えてください。
シュワルツコフ ヘンケル株式会社はドイツの大手化学メーカー、ヘンケルグループの一員で、ヘアカラー、ヘアケア等の製品を提供しています。ヘンケルグループは洗濯洗剤からスタートし、現在では業務用接着剤とコスメティックを加えた三本柱で事業を形成しています。コスメティック事業には、ドラッグストアなどで販売する一般消費者向けと、ヘアサロンなどで使う業務用があり、前者をシュワルツコフ ヘンケル株式会社が扱い、後者はヘンケルジャパンのシュワルツコフ プロフェッショナル事業本部が扱っています。現在、私はシュワルツコフ ヘンケルの取締役会長とともに、ヘンケルジャパン取締役シュワルツコフ プロフェッショナル事業本部長を兼務しており、日本のヘンケルのコスメティック事業全体の責任者です。
厳しい経済環境の下でも、2ケタ成長を続けている、その要因は何だとお考えですか。
他社が思いつかないような、革新的なことに挑戦し続けているからだと考えます。 例えば、私がマーケティング・ディレクターとして入社したのは6年前ですが、当時は投資もできないほどの赤字でした。それを立て直すためには、他社が持っているマーケットを奪うか、新しいマーケットを創るしかない。当社の主力製品であるヘアカラー市場には大手競合が沢山参入しています。ヘアカラーは7?8割が年配者向けの白髪染め、残りの2?3割が若者向けのヘアカラーと、染めた髪を黒髪に戻すターンカラーです。そこでまずは大手競合がフォーカスしていなかった若者向けヘアカラー市場で勝負にでました。目立つこと、とんがっていることをやろうと、業界で初めて、「ブライス」という人気のファッションドールをパッケージに採用したのです。これがヒットし、成功することができました。 我々はチャレンジャーのポジションなので、他の競合企業と同じような戦い方をしても絶対勝てません。製品自体には非常に自信があるので、それをどうアピールするか、インパクトを与えるかが問題でした。幸いなことにヘンケルは非常にフレキシブルな会社で、製品はグローバル全体で開発していますが、マーケティングや販売面ではローカルの考えを重視して任せてくれます。だから大手競合がなかなかできない、前例のないことをやって、差別化を図るという戦略をとることができる。それがどのような状況下でも成長し続けられていることの要因だと思います。
御社の強みや魅力はどこにあると思われますか。
やはり、他社がやっていないことをやる、新しいことに挑戦し続けることができることですね。また、状況に合わせて柔軟に変わることができる企業であるとも言えます。 私がマネジメントになった際、社員には、業界のしがらみにはこだわるな、壊してしまえと、かなり強いことを言いました。事業を立て直し、成長する為には従来のやり方をフォローするのではなく、新しいことにチャレンジすることが必要だったからです。ヘアカラーの商品パッケージの件もその一例ですが、ビジネススタイルという面でも、長年の慣例を変えました。 例えば、業務用のヘアカラーをサロン様に販売する場合、まずディーラー様が我々から製品を購入し、それをサロン様へ販売します。従来はディーラー様の購入額に対してリベートを支払ってきましたが、ディーラー様にアプローチして「買っていただく」のではなく、サロン様に「一緒に販売していく」ように当社の営業の意識を変えるため、サロン様への売上に対して支払う形に変えました。かつてはディーラー様に商品の購入をお願いしていましたが、今は「どれくらい一緒に売っていけるか、売り方を考えましょう」というように、ディーラー様とはあくまでパートナーであるという意識に変わってきました。また、サロン様へのサポート力を強化するため、営業部員全員が販売士の資格を取得し、自社商品を売り込むだけの営業ではなく、マーチャンダイジングやマーケティングの役割もこなせる、サロン様にとってのビジネスパートナーを目指すようにしました。 さらに、ソーシャルマーケティングにも力を入れています。美容業界は非常に大きくてサロンも何十万軒とある。しかし、業界の中で大きな社会貢献への取り組みはほとんどありませんでした。この規模を生かして何かチャレンジできないかと思ったのが始まりで、まず自社でできることからと「ピンクリボン・キャンペーン」を行いました。その後も、「未来をつなぐ 夢はさみ」と題してカンボジアで美容職業訓練を行ったり、「ヘアケアしながら社会貢献」を合言葉に環境にやさしい自然由来成分を使った新製品を出したりしました。ヘアカラーのキャップをリサイクルしたお金で植林をする「カラー・ジ・アース」(地球をカラーしよう!)活動も行っていきます。
自分が正しいと思ったことは必ずやり遂げる
リーダーとして日頃から心がけておられるのはどういうことですか。
とにかく結果を出し続けなければいけないと思っています。リーダーというと、リーダーシップのスタイルやスキルなどに目を向けがちですが、実際には結果がすべてです。優れたリーダーで結果を出していない人はいません。スタイルやスキルは状況に応じて変化させるものだと思いますので、それには拘らず、とにかく結果を出し続けていくことを意識しています。 それから、部下と話すこと。今のポジションについてからは、全国の支社を四半期に一度は回り、250人ほどいる社員全員と会社の現状や方針、課題について話すようにしています。テレビ会議などは使わず、直接会って話す。そうすれば社員との距離が近くなり、組織の風通しもよくなります。 自分の意見を自由に言えて、実際にそれが実現できるということがわかれば、仕事への自信も出てきますし、自信が持てると自分から動くようになる。それだけでほとんどのことが実行できるようになります。社員がオーナーシップを持って仕事に取り組んでいる組織は強い。トップがいなくても動ける組織をつくることが究極の目標です。
仕事をするうえで足立さんが大切にしていることは何でしょうか。
自分が正しいと思ったことは必ずやり遂げる、ということです。逆に、正しいと思えないことは本社の指示であっても、絶対やらない。外資系企業には似つかわしくない言葉かもしれませんが、そういう「気合」がないといけないと思っています。
どこでそれを身につけたかとよく聞かれるんですが、しいて言えば父親の影響かもしれません。失敗は自分のせいだと、子どものころから言われていましたから。だから、大学受験や就職のときも一切干渉されなかった。どんな選択をしようとかまわないが、失敗してもそれは君の責任だよと。そんなことから独立独歩の精神が育ったのかもしれません。
それと、ブーズ・アレンやローランド・ベルガーでのコンサルタント経験でしょうか。まったく知らない世界に飛び込んで、一から自分で勉強しました。切れ者の企業経営者たちと1対1で向き合うわけですから、必死で勉強しなければすぐに負けてしまう。そういう修羅場をくぐり抜けてきて、気合が必要だというのを身体で覚えましたね。
外資系企業で活躍するために必要なことは何だとお考えですか?
外資系に限ったことではありませんが、3つのことが必要だと思っています。1つはロジックで考え、説明する力。お客様でも社内の人間でもそうですが、他者を説得するのにロジックがなければ話になりません。
とはいえ、人間同士だからロジックだけでは心から通じ合えない。そこでソーシャリティ(感情に訴える力)が必要になってくる。相手に好感を持ってもらい、味方にしてしまう力です。自分だけでできる仕事はそんなにありません。周りの人に動いてもらわないと実現できないことが多く、「この人のためなら、やろう」と思う信頼感がなければ、仕事はうまく進みません。交渉事でも相手が喜んでくれたり、相手に良い印象を残せたりすれば、必ず成功に繋がります。
最後は仕事のイニシアチブをとれること。与えられた仕事だけでなく、自分で考えて仕事をしていく人が活躍します。仮に仕事の7割ぐらいは上から命じられたものだとしても、3割は自分で考えて新しくできることがあるはず。それを主体的にやっていく。わからないこと、できないことがあれば、「教えて」「助けて」とはっきり言うこともイニシアチブのうちだと思います。
シュワルツコフ ヘンケルではどのような人材を求めておられますか。
今挙げたことに加えて、自分のやりたいことを明確に持っている人と働きたいと考えています。何がやりたいのか、何がやりたくないのかをはっきり持って、周りに言える人ですね。わがままに見えても、自分はこうしたい、なぜならこうだから――という考えをきちんと持っていなければ、人から強く言われるだけでぶれてしまうんです。
それから自分の仕事をきちんと理解している人。たとえば、マーケティングの仕事というと、いかにイベントをうまく仕切るか、印象的なCFやパッケージをいかにつくるか、だと思っている人がまだ多いのですが、マーケティングの目的は製品の発売を成功させて利益を上げることなんです。そこをちゃんと理解して仕事ができる人ですね。
例えば当社には非常に優秀なマーケティング担当者がいますが、実は彼女は英語が苦手。ですから外資系企業の社員としては要件を満たしていないのですが、常に2、3手先のことを考えている。今年の新製品はもう決まっていますが、その先を自分なりに考えて次の手を打っている。イニシアチブもとれる人で、エージェンシーたちを巻き込みながら全体をコントロールしています。これで英語ができれば完璧なんだけど(笑)。こういう人にはぜひ来ていただきたい。
私が願うのは「みんなが幸せな会社」。シュワルツコフ ヘンケルで仕事をすることで、周りも自分も幸せにできる人材を求めています。
ありがとうございました。