ゴールを示して過程を任せる
グローバル企業で活躍するビジネスリーダーの条件は何だと思われますか。
チームの一人一人がそれぞれしっかりとしたスペシャリティを持ち、いざというときにはお互いがお互いを補完しあって最高のパフォーマンスを出す。これが私の理想とするチームのあり方です。そしてメンバーの個性と自主性を尊重しながら彼らが持つ能力を最大限に発揮させることができるのがリーダーだと思います。メンバーのリーダーが何から何まで手出し口出ししていたら、組織は動かなくなってしまう。リーダーは目指すべきゴールを指し示したら、全体の動きを見守り、トラブルが起きたり緊急事態が生じたりしたときに対処すればいい。そして結果責任はリーダーである自分が取る。ゴールを示して過程をメンバーに任せることが、よい結果に繋がると考えています。
リーダーとして心がけていることはありますか。
責任と権限は常に表裏一体のもので、権限を行使するのであれば、その結果に対してしっかり責任を取らなくてはならない、ということを大事にしていますね。部下に仕事を全面的に任せるにしても、その最終責任はリーダーである自分が取らなくてはなりません。責任を取るからこそ、メンバーも自分を信じてついてきてくれますし、更に良いパフォーマンスが出せるようになると思います。
ご自身は部下に対して、どういうマネジメントをなさっていますか。
経験の量は私のほうが若干多いですが、ポテンシャルや能力に関しては部下とそんなに差はないと思っているので、どんどん仕事を任せています。初めのうちは、ゴールを示すと同時にやり方も説明しますが、ある程度できるようになったらすべて任せます。一からやってもらうことで本人はすごく考えるし、その結果仕事の効率もクオリティも高くなる。なにより、仕事をやり遂げることで飛躍的に成長するんですよ。
もちろん、部下はスペシャリティも性格もそれぞれ違います。リーダーとしてそれをしっかり把握し、一人ひとりのスペシャリティを伸ばして相互に補完しあえる環境を整えることで、多様性と柔軟性を備えた理想的なチーム作りが可能になるのではないでしょうか。
そのべースとなるのは、一人ひとりの部下との信頼関係、リスペクトし合える関係です。それには、相手を理解するための努力を厭わないこと。仕事上での関係を大切にすることはもちろんですが、週末に一緒にスポーツをしたり、お酒を飲んだりして、お互いを人間的に理解する機会を持つこともありますね。
これまでのキャリアパスを教えてください。
私は新潟の生まれで地元の大学を卒業後、兵庫県の化学会社に就職しました。しかし、新潟に工場があるアメリカ系の化学会社が工場拡大に伴う社員募集を行ったので、2年半でそちらに移りました。当時はまだ100人ぐらいの組織で、技術系の仕事をすべて行っていたQC(Quality Control:品質管理)の部署に配属され、QCの仕事をルーチンでこなす一方でR&Dの仕事も担当しました。内容は、半導体の回路を書く際に使う薬剤の開発です。始めのうちはアメリカ本社のR&Dが開発したものを日本市場に合わせて製品化する仕事が大半だったのですが、徐々に日本独自にR&Dを手掛けるようになりました。自分が開発したものをお客様が採用してくれたときは嬉しかったですね。
その後、組織の改編に伴って工業技術の部署に移りました。そこでの仕事は、開発品を工場で量産化する上での技術的な問題を解決することでした。そのためのテストや生産設備の改良も含まれます。結局その会社には14年勤め、2002年にエボニック デグサ ジャパンに転職しました。
エボニック デグサ ジャパンではどのような仕事をされているのでしょうか。
まず製造マネージャーとして入社し、3年ほど触媒の製造部門を担当していました。組織としては小さかったのですが、もちろん責任においては一つの会社と同等でした。私の責任範囲は製造のQCとQA(Quality Assurance:品質保証)が中心で、R&Dは別にありました。ISOを取得して業績を上げることが、私の主たる使命でした。それを達成し、 2005年からは製造技術のマネージャーも兼任するようになりました。
英語はどのように勉強なさったのですか。
前社がアメリカ系でしたから必然的に使うようになり、鍛えられましたね。台湾の大きな顧客との折衝もすべて英語でしたから。エボニック デグサ ジャパンに来てからは上司がドイツ人で、日常会話が英語になりました。この会社ほど英語を話す日本人がいるところは、そうないと思います(笑)。社内の教育制度が整っているし、社員が熱心に勉強しているのも理由かもしれません。
主体的に仕事を進める人が活躍できる環境
エボニック デグサの強みはどこにあるとお考えですか。
エボニック デグサは化学・エネルギー・不動産分野でグローバルに活動しているエボニック インダストリーズの化学部門を担っています。化学業界以外ではさほど名前を知られているわけではありませんが、スペシャリティケミカル企業としてはかなり強いブランド力を持っていて、エボニック デグサの総売上の80%以上はマーケットリーダーとなっている事業から生まれています。スペシャリティケミカルは製品革新が頻繁に行われる分野であり、非常に幅広い製品・産業に対して提供されるものですから、エボニック デグサでは3つのビジネスセグメントと6つのビジネスユニットを構築しています。それらを基に、グローバルな組織がしっかり作られています。例えば私のビジネスユニットでは工場はドイツ、アメリカ、ブラジルと日本にありますが、サイト間の関係性が明確になっているので、自分のカウンターパートが誰なのかすぐにわかります。そして、グローバル・ミーティングが毎年あり、みんなと意見交換や交流を持つので、サイト間で自然とサポートし合う関係ができています。このグローバル・ミーティングではいろいろな国の人たちと知り合えるので、とても刺激を受けますね。特にドイツのエンジニアにはドクターが多いので、教わる部分が大きい。また、コミュニケーションも重視していて、ミーティングの最終日をソーシャルイベントデーにして、友好を深めるためのイベントが行われます。ドイツでは古城巡り、ブラジルではサンバ大会という具合です。
そして、各拠点とドイツ本社との繋がりが非常に強いのも特徴です。東京本社に勤める事業部長が日本での私の上司になりますが、それとは別に製造機能としてグローバルなプロダクション・マネージャーがいて、私は彼とも日常的にやりとりしています。日本国内だけでなく、グローバルで一つのチームとして仕事ができることはエボニック デグサ ジャパンの強みだと思います。
働きやすさの観点からは、エボニック デグサ ジャパンをどのように評価なさっていますか。
人材の育成・教育や働きやすい環境づくりに力を入れている会社だと思います。社内の教育・研修制度が整っていますし、会社のサポートを受けて在職しながら博士号を取得した同僚もいます。また、結婚や出産、育児を経て働き続けている女性社員も多く、こういった面での支援制度も整っていることから社員を大切にする会社だと感じています。
本人の自主性に基づいて仕事をさせてくれることも魅力の一つです。やる気さえあれば、自分で仕事をマネジメントしながら進められる。上司は、何か問題があったら相談してくれ、というスタンスで仕事を任せてくれます。私もマネージャーとして、部下には自主的に仕事をしてもらうように心がけています。逆に言えば、そういう仕事の仕方が苦手な人にとっては働きづらい会社かもしれません。
今度、三重県四日市市での新工場稼働に合わせて人材を募集なさるそうですが、どのような人材であればエボニック デグサ ジャパンで活躍できるのでしょうか。
やはり自分で主体的に仕事を進められる人ですね。しかも、目指すゴールと進むべき基本線をわかったうえで、自分なりに工夫してパフォーマンスを上げられる人。そういう人であれば、QCでもR&Dでもやっていけると思います。あれこれ細かく指示されなければ仕事ができないというのでは、ちょっと難しいんじゃないでしょうか。
また、化学メーカーなので安全とコンプライアンスに関しての意識をしっかり持てる人というのが大前提ですね。
グローバル企業で活躍したいと考えている若い人たちにメッセージをお願いします。
グローバル企業だからというわけではないかもしれませんが、ビジネススキルだけでなく、コミュニケーションスキルがとても重要だと思います。対人関係で揉まれる経験を若いうちに多く積んでください。仕事上の付き合い人だけではなく、地域のコミュニティや趣味や遊びの友人関係、スポーツクラブやチームでの活動など、コミュニケーションスキルを磨ける場は結構あります。そういう所に積極的に入っていって経験を積むことが大切なのではないでしょうか。仕事に対面コミュニケーションは必要不可欠です。対人関係スキルの引き出しを多く持っていれば、必ず仕事に役立ちます。
ありがとうございました。