まず、A.T. カーニーがどのような企業か教えてください。
A.T. カーニーは1926年にシカゴで創立されたコンサルティング・ファームです。世界32カ国の拠点にグローバルネットワークを持ち、主要産業分野のグローバル1000社や各国大手企業を中心顧客として、戦略からオペレーション、IT経営に至るまで一貫した高品質のコンサルティング・サービスを提供しています。アジア最初の拠点として東京オフィスが開設されたのは1972年で、以来、金融、情報通信、ハイテク、自動車、消費財・小売など、幅広い産業の顧客企業に貢献してきました。
1995年には情報サービスの世界的企業であるEDS社の傘下に入りましたが、2006年1月にMBOで独立。それにより会社の規模は小さくなりましたが、少数精鋭で筋肉質になって、昨年度は過去最高の業績を収めることができました。非常によい再スタートを切れたと思っています。
MBO後の1年でそれだけの成果を出せた最大の理由は何ですか?
創業者アンドリュー・トーマス・カーニーの理念である、「顧客の利益を最優先し、顧客の期待を超える」をMBOに際してみんなで再確認し、初心にかえったことで自分たちがやりたいビジネス、提供すべきサービスに全力を挙げて集中できたからでしょうね。A.T. カーニーの価値を期待してずっと使い続けてくれたお客様方がいましたから、その期待に応えなければいけないという思いを全員が強く持っていました。それが大きかったと思います。
他社とは違う、A.T. カーニーの強みは何でしょうか?
自分たちの大きな特長であり、かつ強みだと思っていることは、「高度な専門性」「目に見える成果の実現」「顧客企業との密接な協働作業」の3つです。これはA.T. カーニーが創業以来80年間、ずっと大切にしてきたバリューでもあります。
高度な専門性について言えば、実際のコンサルティング・プロジェクトでは、産業別スペシャリストと課題テーマ別スペシャリストがチームを組んで課題解決にあたります。お客様の課題やニーズに対応するために多国籍のチームが組成されることも珍しくありません。目に見える成果の実現とは、確実に答えを出すということ。極端な話、お客様が100メートルを5秒で走りたいと言うのであれば、どんな手を使ってでも5秒で走れるようにする。車を使ってもいいじゃないかと。それができないのであれば仕事をお断りするということも含めて、結果を出すことにとことんこだわっています。
そして仕事はオンサイト主義で、ほとんどのプロジェクトはお客様の所で机を並べてやります。コンサルタントの一挙手一投足がお客様の目に入るわけですから、非常に高いプレッシャーと緊張感を伴います。このほうがバリュー・デリバリーの観点ではお客様にとってベターですし、コンサルタントも成長できる。また、コンサルタントの評価には、プロジェクト終了時点でのお客様の評価だけでなく、半年後、1年後のお客様の評価も入ります。
お客様の中にそれだけ深く入っていくということですね。
お客様からは、「我々が溺れたときに、こうしていたら泳げるよってプールサイドから言ってくれるのではなく、飛び込んで助けてくれる」と言われます。実際、私たちもお客様と共に汗をかくことを大切にしていて、「やり方は今のところわからないけれど、あなたと私が知恵を持ち寄れば達成できるに違いないから頑張りましょう」と動きだします。泥臭いようですが、そうやって結果を出してきたからお客様がリピーターになってくれるし、ほかのお客様を紹介してもくれるのだと思っています。
深く入るという意味では、戦略を立てたり変革プランを提案したりするだけでなく、戦略や変革の実行まで関わります。新商品のマーケティング戦略を立てたら、それを一緒になって売るところまでやる。やり方を教えるのではなく、やってみせるのです。営業改革や新規事業参入のプロジェクトでも、同じスタンスで臨んでいますよ。
佐藤さんはリクルートからA.T. カーニーに移ってこられたわけですが、どこに魅力を感じて転職を決断されたのですか?
自分という素材をいちばん効率的に機能させる仕事は何かと考えたときに、コンサルタントが向いていると思ったからです。自分が事業の主担当としてビジネスを動かすのではなく、参謀役としてサポートするほうがより良い結果を出せることが、ダイエーの仕事をしていたときにわかりました。
戦略コンサルティング・ファームの中で、なぜA.T. カーニーかというと、この会社には多様性があって、いろいろな人がそれぞれの個性と専門性を活かして働いていた。ですから私も、会社のカラーに染められることなく、自分流で仕事をできるのではないかと思ったのです。実際そうやってきて、自分が持っているものを十二分に生かすことができたと思っています。
10年近く働いてこられて、満足度はどのぐらいですか?
かなり高いですね。前の会社ではとてもできなかったこと、たとえば、メガバンクの頭取と対等に話をしたり、国全体を動かすようなプロジェクトに関わったりできる。そこに大きなやりがいを感じますし、自分の成長も実感します。
確かに仕事は忙しいし、お客様の要求も厳しいですよ。それでも自分で時間をコントロールできるし、休みも十分取れる。私はリフレッシュと充電のために、毎年12月は1カ月間、山小屋に篭るんですよ。こういう仕事は、人間としての価値を高めていないとできないと思いますから、そのために休みを取るのはいいことだと考えています。だからそれ以外の月も、普通に休みます。それだけ休んでもみんなより仕事をしている、というのが私のひそかな自慢なのです(笑)。
A.T. カーニーの今後の方向性については、どのように考えをお持ちですか?
規模の面では、コンサルタントの人員数を拡大していきたいと考えています。現状では、お客様から依頼されたプロジェクトを受けきれませんし、もっとコンサルタントが自分をブラッシュアップしたり、知恵をつけたりする余裕を作り出したいと思っています。また、プロジェクトへの参加は公募制なのですが、コンサルタントが自分のやりたいプロジェクトに関われるようにするためにも、人員面での余裕が必要です。
業務面で言うと、A.T. カーニーが強い産業分野は金融と通信、自動車ですが、その強さをより確固たるものにしたい。それから、放送、新聞・雑誌といったメディアと商社は、A.T. カーニーがひそかにトップシェアを誇る業界でこれは維持しつつ、さらに、メディカルやコンシューマなども拡大していきたいと思っています。
それらを推進するためにも人員の拡充が必要ですね。では、どのような人材を必要としておられますか?
それまでのキャリアがどうとか、MBAを持っているといったことよりも、自分がA.T. カーニーで何をしたいのか、そして自分はA.T. カーニーに何を与えられるかが、しっかりわかっている人に興味があります。よく、経営者になりたいからコンサルティング・ファームで勉強したいって言う人がいますが、それだけではコンサルタントとしてお客様の期待を超え続けることはできない。やはり、A.T. カーニーのコンサルタントとしてこれをやりたい、それで会社をこうしたいんだ、という考えと意欲をしっかり持っている人でなければ続けられません。実際、いま活躍しているのはそういう人たちですし、彼らがこの会社をどう変えていくのだろうかって、我々も期待しながら見ています。
それから、お客様が悩んでいること、お客様の痛みを、自分の問題や痛みとして考えられるセンスは持っていて欲しいですね。人間として、人との正しい関わり方を知っていれば、コンサルタントとしてのスキルは入ってからいくらでも伸ばせますから。そのセンスがあるかどうかは、とても大事だと思いますね。