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ISS Consulting 30周年記念 Talk Session Report

AI時代、人の価値はどこにあるのか? ~人とAIはどう共に働き、成長するのか~

2026年9月10日(木)|城山トラストタワー WeWorkラウンジ

ルイ・ヴィトン ジャパン株式会社 Head of Human Resources 松下 奨平
×
日本電気株式会社(NEC) HRビジネスパートナー統括部長 森本 雅之 氏        

Facilitator:ISS Consulting 代表取締役社長 関口 真由美


生成AIの進化によって、採用、育成、評価、タレントマネジメント、そして組織のあり方までが大きく変わろうとしています。では、AIが分析や提案を担う時代に、人にしか生み出せない価値とは何でしょうか。

ISS Consulting創業30周年を記念して開催した本Talk Sessionでは、ルイ・ヴィトン ジャパン株式会社 Head of Human Resources 松下奨平氏、日本電気株式会社(NEC)HRビジネスパートナー統括部長 森本雅之氏をお迎えし、ISS Consulting代表取締役社長 関口真由美のファシリテーションのもと、両社の具体的なAI活用事例と、AI時代の人事・リーダーシップの未来について語り合いました。募集開始後まもなく満席となった会場では、実務に根差した率直な対話と活発な質疑応答が交わされました。



AIは、人が見落としていた可能性を広げる

ルイ・ヴィトンでは、2022年から採用のスクリーニングプロセスにAIを導入しています。AIの役割は最終判断ではなく、人の判断を支援すること。既存社員のハイパフォーマーと苦戦している社員の特徴を分析し、職務経歴や適性に加えて、接客時の表情や声のトーンなども含めた複数の観点から、活躍可能性を捉えています。

その結果、従来の経歴中心の選考では見過ごされていた可能性のある、プロスポーツ選手のセカンドキャリア採用にもつながりました。異業種から入社した人材が半年ほどで成果を表し始め、約1年でエリアの売上上位層に入った例も紹介されました。さらに、目標への強いコミットメントやチームワーク、周囲への働きかけが、既存社員にも良い刺激を与えているといいます。

AIが選ぶのではなく、人だけでは見つけきれなかった可能性をAIが示し、最後は人が決める。

NECでも、評価、目標設定、サクセッションなどの人事データをAIが分析し、仮説や候補を提示しています。従来は上司や人事の認知の範囲に入りにくかった、離れた部門の人材が候補として浮かび上がり、事業変革を担うケースも生まれています。両社に共通していたのは、AIを『答えを出す存在』ではなく、『人の視野と選択肢を広げる存在』として捉える姿勢でした。

AIの強みと、人に残る責任

NECでは、データ分析、シミュレーション、リスクの予見など、AIの得意領域で活用が進んでいます。セッションでは、AIエージェントのみで構成する専門組織を立ち上げ、経営分析やリスク検知などを行う取り組みも紹介されました。人事領域では、残業時間、エンゲージメントスコアなどを組み合わせ、将来の職場や社員のリスクを早期に察知するトライアルや、目標・評価の甘辛を客観的に確認する活用も進められています。

一方で、AIが示す確率や評価をそのまま正解とすることへの警鐘も鳴らされました。AIが95%の適合度を示した候補者ではなく、70%の候補者を人が選ぶこともあり得ます。会社の理念、現場の状況、本人の意思、周囲への影響など、データだけでは捉えきれない要素を引き受け、最終的な意思決定と説明責任を担うのは人間です。

また、AIは説得力のある仮説を大量に提示できるからこそ、『何をやらないか』を決める力も重要になります。本質を見抜き、選択肢を絞り、責任を持って実行する。その判断力は、AI時代に一層価値を増していきます。

人間らしさが、ブランドと組織を動かす

ラグジュアリービジネスの価値は、人の手、人の感性、人と人との関係性によって生まれます。長年の経験を持つ職人だからこそ作れる製品。お客様の言葉にならないニーズを汲み取り、心を動かす接客。こうした共感や細やかな気遣いは、人間だからこそ生み出せる価値です。

CRMデータからAIが『誰に、どの商品を、どのように勧めるか』を提示しても、それをそのまま送るだけでは十分ではありません。トップセールスは、お客様との関係性を踏まえ、自分の言葉や一言の気遣いを加えます。AIが分析と提案を担い、人が共感と文脈を重ねる。この掛け合わせが、より良い顧客体験と成果につながっています。

AIが分析と選択肢をつくり、人が共感、動機づけ、説得、交渉によって価値を完成させる。

組織においても同様です。人を巻き込み、共通の方向へ導くこと。偶然の出会いや小さな関心から新しいチームを生み出すこと。人の気持ちに寄り添い、カルチャーを変えていくこと。AIによってオペレーションや分析に費やす時間が減るほど、人事には、こうした人間的で戦略的な役割へ時間を振り向けることが期待されます。

AI時代の育成――『疑う力』と『挑戦する文化』

AIが作った資料や提案をそのまま使用し、問われても自分の言葉で説明できない。

そうしたリスクは、特に経験の浅い人材の育成を考える上で重要な論点となりました。自分の専門領域であれば違和感に気づけても、経験のない領域ではAIの出力を正しいと感じやすい。だからこそ、AIの仮説を疑い、検証するクリティカルシンキングと、判断の土台となる実務経験を意図的に育てる必要があります。

同時に、AIによって、従来は若手が何年もかけて担っていた情報収集や資料作成の一部を短縮できる可能性があります。そこで生まれた時間を、対話、意思決定、人への働きかけなど、より早い段階から『人間らしさが求められる仕事』に充てる。AIと共に経験を積むことで、これまで5年かかった成長を2年に縮めるような育成も視野に入ります。

NEC森本氏からは、AIは間違えるものだと理解した上で、粘り強く対話し、失敗から学ぶ文化へ転換する必要性が語られました。ルイ・ヴィトン松下氏からは、学習機会をいつでも使える環境として整えるだけでなく、学びが本人の成長やキャリア、顧客満足にどうつながるかを伝え、リーダー自身が学ぶ姿を示すことの重要性が示されました。制度とマインド、そしてリーダーの行動。この三つを連動させることが、AI時代のカルチャー変革につながります。

変わらないリーダーシップ、変わる仕事

AIによってリーダーの仕事は変わります。しかし、求められるリーダーシップの本質は変わらない、むしろ重要性が増すという点で意見が一致しました。変化の中でビジョンを描き、人の気持ちをそこへ向け、挑戦したいと思わせること。AIに任せる領域と人が担う領域を見極め、組織に必要なスキルと経験を設計すること。そして、人に寄り添うコミュニケーションで成長を支えることです。

AI活用の浸透によって、経験年数に関係なく、一人で生み出せる成果が飛躍的に高まる可能性も語られました。若手が短期間でマネージャーと同等の成果を上げる時代には、年齢や在籍年数ではなく、価値創出と成長を正しく評価する仕組みも不可欠になります。人事には、リスキリングの機会を用意するだけでなく、AIと人がそれぞれの強みを生かせる仕事と組織を再設計する役割が求められます。

Q&Aから見えた、導入を前に進める実践知

  • スモールスタート:全社一斉ではなく、まず一人・一店舗から始め、成果を共有する。現場から『次も採用したい』という声が上がる状態をつくる。
  • 根拠を透明にする:AIがなぜその候補や提案を示したのかを明らかにする。職務記述書だけでなく、現場の生の声を取り込み、対話を重ねて精度を高める。
  • 継続的に調整する:導入時のモデルを固定せず、入社後のパフォーマンスなどを追跡し、ファインチューニングを続ける。
  • AIをコーチにする:面談中のリアルタイム助言や過去の対話を踏まえた提案などにより、マネージャー育成を日常的に支援する。

AIで人にしかできない仕事を強くする

今回の対話を通じて浮かび上がったのは、AIを導入する目的は、単に人の仕事を減らすことではないということでした。AIが人では捉えきれない情報を分析し、可能性やリスクを示す。その上で人が、本質を見極め、責任を引き受け、人の心を動かし、成長を支える。AIと人の価値を対立させるのではなく、互いの強みを組み合わせることで、仕事と組織の可能性は大きく広がります。

進化のスピードが速く、半年後の景色さえ見通しにくい時代だからこそ、変化を恐れずに試し、学び、問い直し続けること。そして、AIによって生まれた時間を、人と向き合うことに投資すること。それが、AI時代における人事の新たな役割であり、変わらない本質なのだと感じるセッションとなりました。

改めまして、ご多忙の中ご登壇くださった松下奨平様、森本雅之様、そして雨の中ご来場くださった皆さまに、心より御礼申し上げます。ISS Consultingはこれからも、経営・人・社会をつなぐ対話の場を通じて、皆さまとともに未来への示唆を探求してまいります。



Photo & text by 安齋陽子

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