INTERVIEW
企業インタビュー

 企業インタビュー
マース ジャパン リミテッド 森澤 篤

成長する企業のビジネス戦略 Vol.25

マース ジャパン リミテッド

社長

森澤 篤

1964年、神奈川県生まれ。京都大学工学部建築学科を卒業後、リクルートに入社。不動産関連事業などに携わる一方で、南カリフォルニア大学(USC)ビジネススクールに留学、MBAを取得。1994年、ボストン コンサルティング グループへ転職。消費財をはじめ様々な業種の問題解決に携わり、パートナー&マネージングディレクターに就任。その後、アリックスパートナーズ・アジア・エルエルシーを経て2010年より現職。グローバルカンパニーであるマースにおいて、日本市場での成長を再加速させ、注目と期待を集めている。

公開日:2016年10月17日
(インタビュー実施時の御所属・役職名にて
記載させて頂いております)

日本市場のレベルの高さが正しく理解されていなかった

マースジャパンに入社するまでのキャリアについて教えてください。

cg_076_02大学卒業後、リクルートに入社しました。今思えば、一介の若手社員にあれほど権限を与える会社は珍しいと思います。例えば、ある高層ビルのディベロップメントをいきなり任され、土地の仕入れなどを体当たりで試行錯誤しながら行いました。20代で本当にさまざまな経験が積めたと思います。

その後、留学制度でMBAを取得し、30歳でボストン コンサルティング グループへ転職しました。ボストンコンサルティングでは、クライアントの立場に立ち、クライアントと一緒に解決策を考えていくスタイルのコンサルティングをしていました。コンサルタントは、どうしても社外からアドバイスすることしかできない「コーチ」ですが、できるだけ社内の「プレイヤー」になりきって考える姿勢を大切にしていたのです。打ち合わせの最中、無意識に「ウチの会社」と呼んでしまうくらい、クライアントと一緒に考え、動こうとしていました。

なぜかといえば、そうしなければ、本当に実践的で効果的なソリューションなど提供できないからです。実は、クライアント内の誰も気づいていない課題というのは、少ないものです。どの企業でも、課題の多くは、誰かが変えたくないから、何かを守りたいから、変え方がわからないからといった理由で、社員の皆さんが見て見ぬふりをしている課題なのです。そうした課題の場合、単に「このように解決しましょう」と言っても、解決はできません。課題解決を妨げているのは、社内の人間関係や社員の方々のマインドですから、その一員になった気持ちで、内側から解決の糸口を見つけていかなければならないのです。

こうした方法は時間がかかりますし、最初は反発を受けることが少なくありません。しかし、むしろ序盤に強くぶつかり合ったクライアントほど、成果を残すことができたと感じています。経営陣から「生意気だ」「何ができる」と言われてもくじけずに、現場を回って一生懸命実態を理解し、課題と解決案を明らかにしていくうちに、次第に共感と信頼を得られるようになり、クライアントの方々を巻き込んでいけるのです。クライアントの方々の主体的なプロジェクトになることで、そのプロジェクトは必ず成功します。このようにして一人ひとりの主体性を大事にするというのは、今も変わらない私のスタンスです。

なぜマース ジャパンに入社したのですか?

ボストンコンサルティングの後、企業再生コンサルタントをしていたのですが、ご縁があって「マース ジャパンの社長に」というお話を頂き、マースの日本と海外の幹部の方々と多数お会いさせていただきました。当時のグローバルCEOも含めてお話をしていた中で、社長経験のない私に、いきなり日本の社長を任せたいという提案を頂きました。この時、「マースと言うのは懐が深いと言うか、結構リスクが取れる会社だな」と感じ、正直そこに惹かれた面があります。また、お会いした方の印象がとてもカジュアルなスタイルかつ、刺激を受けることが多く、中でも当時のグローバルCEOが、少し話をしただけで鋭さが伝わってくるような方で、強い感銘を受けたのを覚えています。

私に与えられたミッションは「マース ジャパンを、もう一度“成長する会社”にして欲しい」というものでしたが、そのミッションには十分にチャンスがあると感じました。ボストンコンサルティング時代、担当したグローバル企業の多くが、日本市場のレベルの高さを正しく理解せずに、本来の実力を出し切れていなかったことを目の当たりにしていて、日本にあったやり方ができれば必ず勝てると思っていました。日本市場は大きな可能性を秘めているのに、世界にはそれがしっかりと伝わっていない。日本でのビジネスを成功させるだけではなく、日本というマーケットの持つ可能性を世界に知らしめたいという気持ちもあって、社長職のオファーを受けることに決めました。

私の仕事は「日本の営業マン」と「アソシエイトの応援団長」

実際に社長に就任して、会社の状況はいかがでしたか?

cg_076_03私が社長に就任した2010年、かつて日本市場でシェアNo.1だったペットフード事業は、さまざまな理由が重なって三番手にまで後退しており、それまでの7年間で会社全体の売上げも大きく落ち込んでいました。しかし入社直後から社員(マースではアソシエイトと呼びます)の皆と会って話してみると、7年も不振が続いていたのにも関わらず、誰も諦めておらず、それぞれが一生懸命に打開策を考えていました。一言で言えば「目が生きていた」のです。営業も頑張っていて、客観的な調査によると、商品を棚に並べる営業力はライバル社よりも高いという結果も出ていました。ビジネスは確かにうまくいっていなかったのですが、各自が自分たちのやりたいことがあって、何をどうすれば勝てるかがわかっている集団なのではないか、と直感しました。

どのような改革を進めてきたのでしょうか?

cg_076_04就任してほどなく、大きな組織改革を実施しました。といっても、一番の肝は「席替え」だったのです。従来は、営業なら営業、経理なら経理が一緒に座る、機能部門別の「島」型座席配置になっていたのですが、それを「ドッグフードチーム」「キャットフードチーム」「チョコレートチーム」のように、担当ビジネス別の「島」に替えました。営業、マーケティング、経理などのメンバーが、職種の壁を超えた「ファイティング・チーム」として、日々一つの島に集うようにしたのです。座席だけではありません。売上管理、経費管理などの権限と責任をできるだけ各ファイティング・チームに委譲して、各チームの目標の具体化や、売上、利益、経費などの情報共有を進めてもらいました。

最初は困惑するアソシエイトが多かったのですが、半年も経つと、マーケターが営業の悩みを理解したり、営業が経理のことを慮ったりするようになり、一丸となって動けるチームになっていったのです。そして最終的には、例えば新製品開発であれば、マーケティングとR&Dだけではなく、営業、物流、経理などのチームメンバーの視点をしっかりと反映した「ものづくり」ができるようになり、その結果として、今までに比べて成功する新製品が次々と増えていきました。また、逆に新製品が思ったより上手くいっていない場合でも、チームで早々に埋め合わせをする新たなアイデアを次々に用意するようになりました。各チームが、失敗した場合のシナリオも含めて、3年ほどの期間での計画を主体的に立て、チームワークを持って動くようになったのです。

私が普段の業務の中で、社長の仕事として重視していることが2つあります。1つは、私が「アソシエイトの応援団長」となって、一人ひとりの「主体性を高める」こと。もう1つは、私が「日本の営業マン」となって、グローバルでの「日本のイメージを変える」ことです。

アソシエイトの応援団長というのは、「あなたのアイデアは正しいから、自信を持って進めよう!」などと後押ししたり、上手くいった場合にほめたり、失敗してもそこからの学びを評価したりしながら、アソシエイト一人ひとりの主体性、オーナーシップをサポートすることです。最初の頃は私自身に新米社長としての力みがあって、皆の思いにブレーキをかけていた面があるのですが、途中で「アソシエイト一人ひとりが、何をどうすれば勝てるかを知っている」と気づいてからは、私は、皆の想いやアイデアを形にするためのサポート役に徹してきました。例えば、ある新製品を実現するためにグローバル本社を動かす必要があれば、本社シニアリーダーやマーケティング部門などに次々と働きかけを行いますし、失敗したアソシエイトに対しては、ポジティブに学んで次に活かせばよいじゃないかと励ますようにしています。

もう1つの「日本の営業マン」とは、「日本のマーケットは面白い」「ジャパンチームは面白い」ということを、グローバル各国のシニアリーダーたちに売り込むことです。そのために、各国のリーダーを積極的に日本へ招き、日本の仲間たちとマース ジャパンのビジネスを紹介しています。なぜかといえば、世界各地の仲間たちに、日本のマーケットには可能性がある、ジャパンチームに任せると画期的なチャレンジをしてくれそうだと思ってもらうほど、ビジネスをよりスムーズに進められるようになり、チャンスを増やすことができるからです。もちろんこれは「日本の独りよがり」でやっているのではありません。世界の消費財市場を見渡しても、日本ほど消費者の要求水準が高く、手ごわい競合がそろっているマーケットは他にありません。規模的にも世界有数で、価格水準も高いカテゴリーが多く、日本で勝てる商品とビジネスモデルを活用して、都市化が急速に進むアジアで勝てる形に持ち込む可能性が大いにあるのです。

おかげさまで、最近はグローバル全体に、日本市場の面白さやジャパンチームの力が認められるようになってきました。例えば、現在、アジア太平洋地域のコンシューマーインサイトディレクターを務める日本人アソシエイトがいます。彼女は中国、インド、東南アジアなどで、日本市場で培ったコンシューマーインサイトに基づく開発の方法論を広め、大きく活躍の場を広げてくれています。

また、私たちは「現場」「現物」「現実」「現在」の4つを重視する「4現主義」を進めています。例えば、普段から店頭やユーザーのご自宅など、現場での商品の状況を深く理解して、成功や失敗の原因を追求しようと努めています。パッケージデザインを決める際は、PCモニター上で判断するのではなく、パッケージデザイン候補のモック(模型)を作り、オフィスに設置している実際の店舗の棚を使った模擬棚に置いて、善し悪しを判断しています。そこまでしないと、本当に良いデザインなのかどうかはわからないからです。最近、この4現主義に興味を持つ世界のシニアリーダーが増えてきました。先日はロシアのシニアリーダーたちが日本にやってきて、4現主義を体験していきました。特に印象的だったのは、彼らには消費者の現場に赴いて情報を得るという習慣がなく、「消費者を訪問して、直接話を聞いたのは初めてだ」と感動していたことです。こうした日本のやり方を、もっと世界に広めていけたらと考えています。

もちろん一方では、マース ジャパンが各国から学ぶことも多くあります。私は、このような取り組みを続けることで、日本と海外の垣根がなくなるのが理想だと考えています。日本人アソシエイトにはもっと海外で活躍してもらい、逆にマース ジャパンには、海外からのアソシエイトをたくさん招きたいのです。

現在の状況と、将来の方針について教えてください。

2011年から業績は伸び続けており、昨年2015年、ペットフードは、ついにシェアNo.1に返り咲きました。次のアイデアをいくつも用意しているので、苦戦してもあまり気にせず、前向きに進んでいける好循環が続いています。工場のキャパシティが足りず、新製品が出せない時期が出るといったチャレンジは時折起こっているのですが、そうしたときは営業が頑張るといった形で協力関係ができており、むしろピンチを成長の糧に変えることができています。

私は就任直後から「ダントツNo.1になろう」というキャッチフレーズを発信しています。入社直後にマースジャパンのアソシエイトたちを見ていて、「この皆なら必ずダントツNo.1になれる」と直感し、発信を始めました。とはいえ、実は何のダントツNo.1なのか、私自身は定義していません。アソシエイト一人ひとりに、自分なりに色々考えてもらうほうが、社長が勝手に決めるよりも面白いし、本気になれるからです。それに、単にマーケットシェアダントツNo.1を目指すというのでは空しい。それよりも、「マーケティングでNo.1の会社になる」「キャットフードチームとして業界No.1を目指そう」「海外のマースの成長を支援するダントツNo.1になろう」などと各自が考え、それを語り合ってもらうことに大きな意味があると感じています。強いて定義するとすれば、そうして皆で常に上を目指して走り続ける状態こそが、ダントツNo.1なのです。ダントツNo.1とは、到達点ではなく、ジャーニーそのものです。

「PDCA」ではなく、「LAPD」で行こう

どのような人材を求めていますか。

cg_076_05特に重視しているポイントは3つです。1つ目に、主体性と自由を重視する方。2つ目に、さまざまな経験を通じて、皆と一緒に喜び、皆と一緒に成長したいと思う方。3つ目に、日本人としての立ち位置を大事にしながら、やがては日本の垣根を超えて、世界中で活躍したいと思う方です。

1つ目の「主体性」については何度も触れてきました。現代は一つの勝ちパターンがない時代ですし、今通用する勝ちパターンも明日はどうなるか分からないですから、何が正しいのかを常に自分の頭で考え、本気で実行する「アントレプレナーシップ」が、働く上で何よりも重要だと、私は考えています。2つ目は、クロスファンクションチームの「チームワーク」を重視していただきたいということ。3つ目は、ぜひジャパンチームの実力を世界に知らしめていただきたいということです。

御社のアピールポイントを教えてください。

マースは基礎研究に力を入れ、品質の高さで勝負していることで世界的に知られており、製造も自社工場の割合が高いのが特徴です。また、新製品開発の際にグローバル本社から求められる品質基準が大変高く、そのために製品開発の苦労が絶えないのも事実ですが、その結果として生まれた製品はどれも自信を持ってお勧めできるものばかりです。ペットにとって、ユーザーにとって良い製品を提供しているという事実は、確実にやりがいにつながるはずです。

また、これまでご説明してきたように、愚直に消費者、物流、小売店などへの理解を深め、チャレンジを続けている仲間たちの姿勢は、働く上でおおいにプラスとなるのではないかと思います。チームメンバーとして魅力的なアソシエイトが揃っていると自負しています。

最後にメッセージをお願いします。

私たちの仕事のスタイルは、一言でまとめられます。それは「LAPD」です。これは「PDCA」に対応する言葉で、Lはラーニング、Aはアクション、Pはプランニング、Dはドゥーです。つまり、最初に学び、その上で一度実行してから企画を立て、本格的に進めていくというのが、マース ジャパンのやり方なのです。

特に、私が重視しているのが「ラーニング」です。例えば、先ほどご紹介した「4現主義」で生の情報を知り、そこから学びを得ることはラーニングの一種です。また、「失敗から学ぶ」ことが大きなラーニングです。そもそもイノベーションには失敗がつきもので、失敗は決して悪いことではありません。次に活かせる失敗は、むしろどんどんすべきなのです。そこでポイントとなるのは、失敗したくない、失敗を隠したくなるといった感情面のコストをいかに下げるかということです。そのために、私たちは、一人ひとりの失敗とそこから得た学びを皆で共有してきました。失敗を隠すのではなく、明らかにすることを奨励してきたのです。その結果、今では多くのアソシエイトが、うまくいかないことも健全なビジネスの一部であって、うまくいかなければ「なぜ?」を考え、そこから学んで軌道修正すればよいという姿勢で仕事に臨むようになっています。

ラーニングからすべてが始まるというのが、私たちの考え方です。ぜひ皆さんにも、失敗を恐れず、そこから多くを学びながら、主体的に行動していただきたいと思っています。

マース ジャパン リミテッド
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マース ジャパン リミテッドは1975年に設立、ペットフード事業、スナック菓子事業、ドリンク事業を展開しています。ペットフード事業では、ペディグリー®、カルカン®ウィスカス®、アイムス®、シーザー®、シーバ®等のトップブランドや、ニュートロ™、グリニーズ™などの主に専門店で展開しているブランドを有しています。スナック菓子事業では、スニッカーズ®やM&M’S®などのトップブランドを有しています。国内従業員数は約320名です。

親会社のマース インコーポレイテッドは、世界78カ国でペットケア、チョコレート、食品など6事業を展開するグローバルな食品会社です。1911年に米国ワシントン州タコマでフランク・マースのキッチンから始まりました。1920年代には息子のフォレスト・マースが事業に参加し、MILKY WAY®を発売。フォレストは、あらゆるステークホルダーとの“互恵”の精神に基づいた事業を築く夢を抱き、1932年に渡英。この精神は今日も変わらずマースの礎であり続けています。現在、マースは年間売上高約330億ドルの大企業へと成長し、5ブランドが100年以上、8ブランドが50年以上の歴史を誇ります。マースの6つの事業の製品は、世界中で愛されています。ペディグリー®やカルカン®ウィスカス®に代表されるペットフード製品では世界のトップシェアを誇り、M&M’S®やスニッカーズ®などチョコレートやスナック菓子は世界中で最も愛されるブランドに数えられています。マースの製品では、まず品質を第1に、そしてその独自性のある製品を通して人々の生活に新しい価値を届けることを大切にしています。創業者フランク・マースの「みんなにおいしくて、楽しい時間を届けたい」という気持ちが現在もここに流れています。

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