なぜ転職に踏みきったのか
前職ではアジア拠点と本社の橋渡しをする立場にいた水書氏。 恵まれた環境で様々な経験を積んだと振り返るが、なぜ転職に踏み切ったのだろうか。
「経済全体の傾向として終身雇用が崩れる中で、組織外に出た場合に自分の今のバリューが通用するのか興味が出てきたのが一番の理由です。 前職の消費財メーカーは、製品差別化を非常に得意とする会社で、マーケティング活動も商品機能に特化したアプローチになります。 現在の日本の多くの市場では製品差別化も上限に達し始め、パリティな状況で価格競争に入っています。 ブランドが生き残っていく為には、製品の差別化と共にいかにエモーショナルなブランド価値を作ることができるか。 この新しいアプローチに興味を持ち始めたのが業務上の理由でしょうか」
帰国後のキャリアプランを考える中で「転職」という選択を頭に描くようになった。 日本企業にいたとはいえ、水書氏の場合、経験を積んだのはアジアに進出した日本企業という立場である。 海外支社は、日本本社のマーケティング部署とは異なり、充実したサポートセクションがあるわけではない。 例えば、制作・メディア・リサーチといった具合に、多岐にプロが揃っている日本本社に対して、海外では広く業務を自分で掌握し、担当し、考えながら進めていくことになる。 「外資系企業が日本に進出した状態と似た仕事環境であったと思います」
40代、50代になった自分が同じように働く環境を手に入れるとしたら、外資系企業が適切なのではないか――こうして転職のための情報収集を開始したのである。
エージェントを利用しての会社選び
「最終的には経営に携わりたいという思いがあります」 と水書氏は言う。現在専門としているマーケティング分野は、会社の戦略を各事業やブランドに落として経営していく仕事だ。 ブランドマネージャーやマーケティングダイレクターはその意味で戦略的志向を要求される。現状のキャリアに徐々に経営的側面をプラスしていきたいと水書氏は考えている。
前職では、大変、充実した毎日であったため転職など考えたことはなかったが、アジア拠点の立ち上げが終わった直後に、こうした長いスパンでのキャリアを漠然と考え 、何とはなしに日経新聞日曜版の求人欄を眺めたという。
「仕事は結構ある」それが率直な感想だった。 しかし、この時点で企業には直接アプライしていない。ここといった具体的な企業希望がなく、個別企業の情報収集をするにも、まだ企業をやめているわけではないため充分な時間がなかったのだ。
「エージェントには五社あたりました。情報をまずとりたかったので、様々なエージェントから情報をもらう中で自分の方向性を絞ろうと考えたのです。 面接を受けても受けなくてもいい、話を聞いてみても聞いてみなくても可。これがエージェントを使うメリットではないでしょうか」 エージェントには、自分の希望を次のように伝えた。
エージェントへの希望の伝え方
- 強いブランドを持っている会社
- 消費財という路線は変えないが、製品力から一歩出たマーケティングを体験したい
「スケジューリングの難しさを最もクリアしてくれたのがISSでした。エージェントによっては『そういう情報は事前に言ってもらわないと困る』と、 後から自分の情報連絡不足を言われた例もありました。事前の希望打ち合わせでいかに内容を詰めていくか、 この部分のコンサルティング力はエージェントによりかなりの差があるのではないでしょうか」
なぜダノンウォーターズオブジャパン株式会社なのか
ダノンが扱う主力製品のひとつであるミネラルウォーターを、水書氏は1)のように分析した他、以下のような理由でダノンを選んでいる。
1. 水には味も色も匂いもない。
…製品でありながら製品力ばかりに頼る性質ではない。この点の難しさに、マーケティング力を生かす醍醐味を感じた
2. 製品自体の市場シェアではなく、市場全体の伸びを注視
…市場自体が縮小している分野では、自分の力量にマイナス要因が常に働くために、正確に結果を検証することが出来ない。
3. ダノンはグローバル企業である
…水という各社参入が容易な、非常にシンプルな消費財を扱い、しかも世界的にブランドをどうマネジメントし、コントロールしていくかに興味が湧いた。
「市場が成熟していると、各銘柄が既にブランドイメージを確立させています。そこに自分が取り込まれていくマーケティングはあまり希望できませんでした。また、チャネルが限定されていると市場を継続させていくのも難しいですから。」
外資系企業に感じること
ブランドとしての戦略を作り、プランに従って実行に移していくこと…つまり、
- Plan
- Do
- Check
- Next Action
の繰り返しがマーケティングの仕事である。現在、入社して半年目になる水書氏は、 試用期間を終えるタイミングにあり、既存のプランに対して着実に「Do」…実行に移すのが仕事である。
「外資系企業では、会社トータルとしての位置付けが根本的に日本系企業と違うところがあります。 ダノンの場合、ほとんど全員が中途採用であるため、個々人の責任範囲が明確です。一方、日本企業は入社当初から教育されて全員でナレッジをシェアしていく仕組みでした。 これはどちらが正しい、という問題ではなく、動きや考え方が自分に合うかどうかではないでしょうか」
転職して感じるメリットは、外資・国内系の違いよりもマーケットの差が大きい。仕事ベースで今までにやってきたことなのない知的吸収、経験蓄積ができるかどうかが重要だ。
「ステップアップしたり、大きなプロジェクトに取り組もうと思えばリスクを伴います。外資系企業に対して『リスク』を感じるかどうかは、やってみなければわからないものです。外資系企業だからスマートであるとか、グローバルであるといった一般的イメージは、日々の仕事ベースで感じるものではありません」 そう語る中でも、やはり差を強いてあげるとすれば…と、水書氏は以下の点を挙げてくれた。
1. 年収が下がるのはあくまで自分のせい
…外資系企業では、前までの実績に対する評価が次の年収の根拠になる。これに対し、日本企業は終わって始めて、事後的に評価される上に根拠がわかりづらい。この点で割り切れるのが自分には合っている。
2. 合併するかもしれない、クビになるかもしれないというプレッシャーの効果
…常にいらない存在と思われないように努力でカバーしていくのは自分にプラス。
3. 社内でいかに自分をアピールできるかが重要
…黙っていれば誰かが見てくれる、自動的に年次で処遇が上がっていく、という他人任せな発想ではキャリアを築けない。いい意味でのアピールの「巧さ」は、プロとして生き残っていく自分自身のマーケティング力。
「私自身は、まったく強い人間ではありません。しかし、全く刺激がないのはよくないと、そのくらいの感覚を持ち合わせている程度です。私たちは経営者ではありませんから、与える側ではなく与えられる環境をいかに楽しむか、何を得るかが重要なのではないでしょうか」