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メディカル・バイオ 業界特集
外資系転職ISS TOP >  メディカル・バイオ業界 > 医薬品マーケティングにおけるDTC広告の意義 第3回

メディカル・バイオ 業界

【第5回】 医療業界マーケティングの今 vol.3

第2回 医薬品マーケティングにおけるDTC広告の意義

医薬品マーケティングの特殊性と環境変化

もともとDTCなどの広告は、マーケティング活動の一手法である。

「マーケティング」の基本は、簡単に言えば、ターゲットとする顧客のニーズを発掘・把握し、それを満足させる製品やサービスを提供すること。そのための様々な手法・ツールがあり、代表的な分類が米国のジェローム・マッカーシーが提唱した「4P」だ。すなわち、「製品」(Product)、「価格」(Price)、「流通」(Place)、「プロモーション」(Promotion)という4つのカテゴリーの手法・ツールを適切に組み合わせることで、より効率よく売上げや市場シェアを達成しようという考え方である。

しかし、医療用医薬品の場合、他の業界、他の商品に比べ、様々な制約が伴う。
まず、「製品」。医療用医薬品は膨大な数の候補物質の中から新しい薬効の可能性のあるものを見つけ出し、さらに動物やヒトでの試験を経て、初めて製品として市場に投入される。候補物質の発見は偶然にかなり左右され、開発段階では10年以上もの期間がかかる。意図通りの製品ラインナップを構築することは容易ではなく、そもそも市場やユーザーのニーズをもとに計画的に製品開発すること自体、極めて困難だ。

次に、「価格」。日本において医療用医薬品の価格は国が定める公定価格であり、企業側の裁量はほとんどない。柔軟な価格戦略をマーケティング手法として使うことは、まず不可能だ。
「流通」にしても、集約化が進む医薬品卸に頼らざるを得ず、また患者へは病院か薬局を通してしか渡らない。チャネルが極めて固定化されているのである。

これらに対し「プロモーション」は、確かに国の広告規制や医療機関の訪問規制などがあるが、それでも他のカテゴリーに比べるとまだ、企業側の裁量があるといえる。特に近年、医薬品を巡る市場の構造が大きく変化しつつあるため、工夫の余地が出てきている。

マーケティングの視点から見て一番の変化は、患者やその家族の存在感の増大だろう。高齢化の進展、慢性疾患の増加、インフォームド・コンセントやセカンド・オピニオンの普及、医療費負担の増大、医療ミスへの関心の高まりなどが患者の意識を確実に変え、患者が医療プロセスへ関わる度合いを高めている。

医薬品のマーケティングはいろいろな特殊性を持っているが、こうした環境変化にともない「プロモーション」のカテゴリーで一層工夫の余地が広がっているのである。
DTC広告は、そうした医薬品マーケティングの大きな変化の流れの中にあることを確認しておきたい。

日本におけるDTC広告の状況

日本における広い意味でのDTC広告の市場規模については、平成13年度で1500億〜1800億円とする推計がある(シミック、NTTデータ調べ)。そのほとんどは胃腸薬や風邪薬などの大衆薬(OTC薬:Over The Counter Drug)で、医療用医薬品のDTC広告に限れば、ここ数年100億円程度で横ばいとする見方もある。

しかし、先述のような環境変化の中で、患者やその家族の医薬品情報に対するニーズは確実に高まってきている。製薬企業としても、患者が病気を正確に認識した上で、早期に医療機関を受診することが、マーケティング戦略上、重要な目標になってきた。

そこで数年前から登場しているのが、「疾病啓発広告」や「治験広告」である。
「疾病啓蒙広告」は、疾病についての理解促進や治療薬の存在を示唆する形の広告で、これまでED(勃起障害)、うつなどが代表的である。

一方、「治験広告」は、新薬開発における臨床試験(主に第V相)に参加する患者を募集するもの。日本では、1998年以降、治験の実施基準が厳格化され、被験者の確保が難しくなっている。そこで、厚労省も治験推進に積極的に乗り出し、いまではマスメディアを活用した被験者募集広告を公認している。

この2つのパターンが、日本におけるDTC広告の突破口となることは間違いないだろう。

DTC広告を展開する上でのポイント

とはいえ、アメリカのように爆発的にDTC広告が普及するとも考えにくい。むしろ、DTC広告のあまりに急激な増加がもたらす弊害を避けつつ、着実に展開していくことこそ重要であろう。そこで、DTC広告の展開にあたって注意したいポイントをいくつか上げてみたい。

第一に、マーケティングの原点は顧客志向である以上、顧客である患者やその家族の意識や行動様式の変化に焦点を当てるべきである。インターネットの普及、医療費負担の上昇、医療に対する社会的意識の変化などを見逃すことはできない。DTC広告についても、顧客の属性や特徴に応じた多様な接点を確保し、それぞれの情報ニーズに合わせ、きめ細かくコミュニケーション手法を選択することが重要である。

第二に、医療の世界ではいまや患者は単なる受身の消費者ではなく、治療プロセスに積極的に参加し、ときには自己責任で判断を求められる存在になりつつある。ただ、そうであっても医療用医薬品の処方権は将来にわたり、医師が持ち続けることに変わりはないだろう。とすれば、患者や医師、医療機関を巻き込んだ形で一貫したプロモーション活動が重要になってくると思われる。アメリカでは、DTC広告を行う前に、十分な時間を割いて新薬や新しい治療法について医療従事者に説明すること業界のガイドラインで義務づけているのも、同じ趣旨であろう。

第三に、最も重要な点であるが、医療用医薬品は生命関連商品である。そのメリットは瀕死の患者の命を救うほど大きいが、同時に副作用の問題が必ずといっていいほどついて回る。効き目が鋭い医薬品ほど、副作用の可能性が高いといっても過言ではない。これは、通常の消費財とは決定的に違う点である。一方的にメリットについての期待ばかり高めることは、間接的にしろ、不適切な処方を広めることにつながりかねず、製品寿命を短くしてしまう。したがって、DTC広告では患者や家族への啓蒙の視点が重要であり、同時に製品のメリットとデメリットをバランスよく伝えることが不可欠である。日用品のように、その日の気分によって選択して使う、といった製品とは根本的に性格が違うことは肝に銘じておかなければならない。

DTC広告の基本ステップ

ここで、DTC広告、DTCプロモーションのステップを簡単に整理しておこう。

1) まず、ターゲットとなる患者(潜在患者を含む)を絞り込む。最近は、高血圧、糖尿病など生活習慣病を対象とするようなメガバスターと呼ばれる新薬は出にくくなっており、比較的ニッチで、あまり広く知られていない疾患を対象にする新薬が増えており、ターゲティングがとりわけ重要になる。

2) 患者に疾病を意識させ、通院を促すため、疾患啓蒙や治験に関するDTC広告を計画する。

3) 疾病への関心と理解を深めた患者が、具体的に行動しやすいよう、最寄りの専門医や医療機関の紹介などを行う。また、通院する際の具体的な手続きや準備などについてアドバイスする。

4) 同時に、その分野の専門医や紹介機能を担う家庭医などへ、当該疾病と治療法などについて情報提供を行い、通院するようになった患者に対し適切な対応がとれるようバックアップする。

5) 患者側と医師側、双方から疾病や治療などに関する情報をフィードバックしてもらい、次の展開へ生かす。

こうしたステップの前提として、患者の行動は一般の消費財の購買よりも複雑であることを忘れてはならない。

患者はまず、ある疾患の存在やその実態を「認知」し、次にその疾患と自分の症状が合致することを「自覚」し、そこで身近にある適切な医療機関へ行って「受診」する。そして最後に、治療やその結果についての「感想」を持つ。しかも、各段階で患者が求める情報やサービスは異なるため、テレビ、新聞などマス媒体にだけ頼っても十分な効果は期待できないだろう。

この点に関連し、大きな鍵を握ると思われるのがインターネットである。ある調査では、製薬企業の疾病啓蒙用ホームページにおいて、コンテンツ別では「自己診断シート」へのアクセスが断然多かったという。患者の潜在的な情報ニーズの一端がうかがえるエピソードである。

まとめに代えて

確かに医療用医薬品は特殊な製品だが、あまりに特殊性を強調しすぎるのも間違いであろう。マーケティングについては一般消費財の世界のほうがはるかに進んでおり、一部先進的な製薬企業では、そうした経験、ノウハウを有するマーケティングの人材を積極的に採用する動きが見られる。

変革期を迎えた医薬品業界ではいま、新たな医薬品マーケティングの可能性を切り開く担い手の登場が待ち望まれているのである。

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